異変

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 俺は街道を歩きながら今の状況について考える――まず、アイツを含めここにいるいろんな姿をしたモノたちは、俺にしか見えていないし、アイツの声も俺にしか聞こえていないようだということ。それから、どうやらアイツは俺に「憑いて」しまったようだということ。相変らず正体は不明だけれど、アイツは俺に危害を加える気はなさそうだということ―― これは希望的観測でもあるけれど、俺を殺す気があるなら、出会ったときに殺していただろうということが根拠だ。 「あれ?」  視線の端にチラリと映った物が気になった俺は立ち止まると、それを確認すべく行き過ぎた道を戻る。それは、地べたで土産物を売るために敷かれた、カラフルなラグの上に乗った木彫りの人形だった。 「……しゃい。」  遠い目をした露天商の男がやる気なさげに言うのを聞きながら、俺はその人形を手に取る。やはり、あの行商人のそばにいた小人とよく似ている。 「ショ……ル。」 「え?」 露天商の男が呟いた言葉を聞き返そうとしたその時、大きな衝撃音と悲鳴のようなクラクションが鳴り、俺は思わず振り向いた。  なぜそうなったのかはわからない。ただ、石造りの家に激突してフロント部分が無残に潰れた車が見え、周囲にいた人々が次第に集まると同時に、血だまりがゆっくりと広がるのが見えた。 血は道路の傾きに従って、虫のようにのろのろと地面を這っていくと、やがて銀色の「トゥミ」がついたペンダントにぶつかり、その歩みを止める。俺はそれに、見覚えがあった。 「ショロトル」  露天商の男がまた呟く。 ショロトル。ケツァルコアトルの双子と言われるアステカの神。その役割は、冥府「ミクトラン」へ旅立つ魂を案内すること――即ち、死神。
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