女神

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女神

『次はー、阿古屋町ぃー。阿古屋町ぃー。当列車は次の阿古屋町で特級通過待ちのため、3分停車します。』  電車のアナウンスで俺の意識は引き戻された。いつの間にか3駅も進んでいる。知らないうちにうたた寝をしていたらしい。 顔を上げると、狩衣の鳥と派手な男はいなくなっており、スカーフで髪を覆ったマレーシア人らしき女たちが立っていた。その後ろには青白い光の玉が浮かんでいる。  この一年間でいくつか分かったことがある。 まず、俺が見ている狩衣の鳥や光の玉、あの行商人についていた小人、俺の影の中にもぐっているアイツは、俗に「神」と呼ばれる類の物らしいということ。 キリスト教徒やイスラム教徒は共通して「光の玉」がくっついている。唯一神信仰の宗教における全知全能の神の姿ということなのだろうか。光だが、不思議と眩しさを感じないのが救いだ。  多神教の国では、さまざまな姿の「神」を見ることができる。インドではゾウの頭をした神、猿の姿をした神、大きな目をしたよくわからない神も見た。 日本の「神」はさらに多種多様で、先ほどのような狩衣を着た鳥だったり、猿の頭をした犬だったり、髪を「みずら結」にした髭のおっさんだったりする。時々、なぜかアニメキャラみたいな姿の「神」もいるので、秋葉原や原宿を歩いていると人間だか神だか区別がつかないことがある。  「神」は一人につき一人くっついていて、俺についているアイツのように姿を隠しているタイプもいれば、人間の後ろに立っていたり、頭の上をフワフワ飛んでいることもある。 影のような光のような、とにかく物質ではないのでぶつかったりするわけではないが、見えているというだけで窮屈な感じがするので、俺は人混みや満員電車が前にもまして苦手になった。  彼らは基本無口だが、ときどき声を出す。不思議なことに、他人についている「神」の声は奇妙な音に聞こえる。 俺が言葉として認識できるのはアイツの声だけで、ペルーからついてきたというのに、なぜか日本語だ。まぁ、きっと「念話」とかそういう類のやつなのだろう。
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