女神

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 それから、「神」は何かの拍子に入れ替わることがあるということもわかった。 入れ替わるきっかけは分からないが、小さな猿のような「神」を連れていた女が恋愛成就で有名な神社に入り、出てくるときは桜の枝を髪に挿した美人の女神を連れているのを見たこともあるので、入れ替わるきっかけは神社や寺院に行ったとか、人助けをしたとか、そういう些細な事なのかもしれない。  最後に、「神」といっても力が強い神、弱い神、ご利益のある神、無害な神、悪い神まで、さまざまな神がいて、「神」が変わるとその人が持つ「運」も変わるらしいということ。 例えば、ビジネスで大成功して一時はテレビにも多数出演していた某企業の社長は、金色に輝く龍神がついていたが、見るからに不吉な黒い顔の老人に変わった途端、株式の不正取引が公となり、自社ビルから飛び降りて死んだ。  俺についているアイツは、とりあえず害はない「神」なのは確かだが、他の「神」に比べるとよく喋るし、何が楽しいのか時々踊っているときもある。 見ていると楽しいといえば楽しいが、一方的に話すし、言うこともめちゃくちゃなので、意思疎通はできないし、ときどきめんどくさい。マジで。  電車が阿古屋町につくと、マレーシア人らしき女たちが楽しそうに喋りながら降りていき、今度はワンピースのような民族衣装を着たインド人の若い母親が、フラフラとした足取りで歩いてきた。  高円寺でよく乗り合わせるこの女が「若い母親」であることを俺が知っているのは、彼女がいつも赤ん坊を抱いて電車に乗っているからだ。 褐色の肌にアーモンドのような形の大きな黒い瞳、少し癖のある髪の赤ん坊は「サティ」という名前の女の子で、まだとても小さい。  俺はいつものように立ち上がると、母親に席を譲ろうとして――異変に気づいた。 彼女は震えていた。肌の色が濃いのでわかりづらいが、うつむいた顔は青ざめている。何より彼女は、サティを抱いていなかった。
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