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「あれ……?」
俺はいつもならいるはずのサティを探して周囲を見回し、彼女の背後に立つ女神と「目があった」。
その瞬間、俺は腰を抜かしそうになる。なぜなら、彼女の後ろにいる「神」は、とても優しい表情をした、美しい女神だったのに、今目の前にいるのは黒い髪を逆立て、憤怒の表情を浮かべた、まるで悪鬼のような姿だったからだ。
『ハァアアアアッ!』
女神は唸った。いや、目が合ったことで、俺が神の姿を見ることができる人間であることに気づいたのだろう。明らかな意志を持って、何かを話しかけてきた。
『ヴァアアア!』
もう一度女神は話す。何を言っているかわからない。しかし、その表情は怒りと悲しみと――懇願?
『サティ! サティ! サティ!』
アイツが俺の影から飛び出し、何度も繰り返しながら母親と女神の周りをピョンピョンと跳ねまわる。サティサティサティサティ……。
「サティ?」
母親の肩が大きく震えたと思うと、彼女はゆっくり顔をあげて俺の目を見た。怒りと悲しみと懇願。女神と同じ目で――「タスケテ」。
その瞬間。俺の体を電気のような衝撃が走り、さまざまな映像が脳の中に流れ込んできた。
こぶしを振り上げる男。無理やり奪われる赤ん坊。何度も何度も床に打ち付けられる。壊れた人形を捨てるようにビニール袋に詰める。そして……。
「来て!」
俺は彼女の腕をつかむと転がるように電車から降り、階段を駆け下り、ショッピングモールになっているコンコースをひたすら走る。目的地は、駅のコインロッカー。
「マジかよ……。」
ロッカールームにたどり着いた俺は、肩で息をしながら思わずつぶやいた。広いのだ。恐ろしい数のロッカーが並んでいる。
「どこだ?」
俺はアイツに話しかけた――いない?
母親の方を振り返ると、彼女は「わからない」というように首を振る。だがそれは分かっていた。俺の脳内に流れてきた映像では、男が袋をロッカーに入れる後ろ姿は見えていたが、それはとても離れた場所で、ロッカーの番号など、ヒントになるものは全く見えなかったからだ。
俺が振り返ったのは、彼女の女神を確認するためだった――そしてそれは、不可能だった。
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