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容態が安定した頃、竜花のパパが訪ねてきた。
一冊のノートを取り出すと、
死人のように落ちくぼんだ目で言った。
「日記だ。最後の方は、君の事ばかり書いてある」
ぱらぱらとページをめくる。私は思わず笑ってしまった。
末期患者のはずなのに、その日記はどこまでも明るくて。
まるで健常者のように瑞々しい筆致で刻まれている。
ああ、この子は本当に。本当に私の事が
好きだったんだなって伝わってくる。
「最後のページを見てくれないか」
言葉に誘われてページをめくる。
ノートの半分くらい、次が空白になっているページに、
こんな言葉がつづられていた。
『ありがとう。あなたのおかげで私は死に方を選ぶ事ができました。
ただ病気に殺されるんじゃなくて、
大好きな人に命を捧げる事ができたんです』
『おかげで、私はハッピーエンドで終われそうです』
竜花のパパが口を開く。声は震えてかすれていた。
「あの子は、自分の人生をハッピーエンドだと言って笑った。
私にはとてもそうは思えないが」
「……君は、どう思う」
私は笑った。なんでそんな事聞くんだろう。
「そんなの決まってるじゃないですか。ハッピーエンドですよ。
死ねたんだもん。しかも大好きな人のために」
「いいなぁ。羨ましいなぁ。おかしいなぁ。なんでだろ。
それ、私の役目だったはずなのに。
私が竜花のために死ぬはずだったのに」
「ひどいよ、『ズルはなし』って言ったじゃん。
もう、竜花ったらホントにひどいんだから」
「ホントなら私が、わたしがっ、わたし、がっ……!」
笑う、笑う、笑う、嗤う。
いつしか肩は震えてて、涙が全然止まらなかった。
耐え切れなかったんだろう、竜花のパパは私の肩をかき抱いて。
私と同じように鼻水を垂らしながら声を絞り出す。
「すまない。……本当にすまない。
だが。娘のためにも、生きてくれ」
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