第1章.花の咲かない竜舌蘭

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第1章.花の咲かない竜舌蘭

 『恥の多い人生を送ってきた』  なんて書き出しができるほど、私は恵まれてはいませんでした。 存在そのものが完全に恥。生きる事すら許されざる汚物。 それが私。『竜花(りゅうか)』と名付けられた生き物です。  生まれる前から災いを生み続けてきました。 体の弱い母の胎内で生命力を奪いながら育ち、 母子ともに生存する事は難しいと医師に中絶を促され。 結局、母の命を食い破って生まれ落ちた私は、 泣く事もなければ動く事もなく。 即座に集中治療室(ICU)に担ぎ込まれたそうです。  名前の由来は竜舌蘭(りゅうぜつらん)という花から。 開花までが非常に長く、十数年かけてやっと蕾が開く花。 『例え今が苦しくとも、いつか必ず花が咲くように』 そんな祈りが籠められているそうです。  そんな祈り、もしくは呪いが嘲笑うかのように。 私という花が一向に咲く事はありませんでいた。 排泄すら自分の意志で行えず、 チューブを挿して糞尿を垂れ流す私。 歩く事などできるはずもなく、 この白くて消毒液の臭いが鼻をつく病室だけが私の世界。  それでも私は生きていました。 否、死なないように生かされました。 巨額の医療費を投じ、私が生まれる前はふくよかだったらしい父から 肉をごっそり奪い取るほどに憔悴させながら。 それでも、私は十二年も生きてしまったのです。  死にたい。どうか私を殺して欲しい。 心の中で、何度そう叫んだでしょう。 でも声を震わせる事は許されませんでした。 なぜなら父が居るからです。  毎日毎日、私の肩をかき抱き。 『今日も生きていてくれてありがとう』 絞り出すようにそう告げて、涙をにじませ微笑むのです。  言えませんでした。何度も言葉を飲み込みました。 『お父さん知ってる?人工透析ってね。すごく痛いんだよ』 『死んじゃ駄目かなぁ』 『お父さんまた小さくなったね。もう見捨てていいんだよ?』 『ううん、お願い。もう、殺して』
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