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第3章.絶頂
幸せな日々が続きました。
動けない私のために、毎日ユズリハが病室まで来てくれて。
二人じゃないと話せない事、彼女じゃないと共感できない思い。
そんな思いを互いにぶちまけました。
「いつもはどんなページ見てるの?」
「あ、これです。『安楽死は怖くない』ってところで、
実際に逝っちゃった人の生前の体験記を綴るサイトがあって。
いいな、羨ましいなって」
「え!?お金出したら殺してくれるの!?
何それそんなサービス知らなかったよ!」
私達の会話には、常に仄暗い闇が付き纏います。
明るく人懐っこい彼女。そんな印象は崩れる事なく、
でも会話には死がこびりついているのです。
だからこそ、私は夢中になりました。
「ただ未成年の場合は親の同意が必要なんですよね……
流石にお父さんにそんな事言えないし」
「ああああー、そう来たかぁ……。
無理無理、パパもママも断固拒否しちゃう」
「ですよね……」
父のくたびれた笑顔が脳裏に浮かびます。
ただでさえ母を殺し、その腹を引き裂いて生まれてきておいて、
『死にたい』なんてどの口が言えるのか。
でも。
「死にたいんですよね……」
「わかる。ぶっちゃけ痛いんだよね。
詩的に言うなら心も体も。特に心の方が」
「わかります。このままじゃ私のせいで
お父さんまで死んじゃう。
一応、お父さんの事も大好きですから」
「だから」
そっと、脇の簡易テーブルの引き出しから
あるカードを取り出すと。彼女の手に渡しました。
「もし、よかったら。受け取ってくれませんか」
それは一枚のドナーカード。
特記事項に一筆加えた一片の思い。
『全ての臓器を401号室のユズリハちゃんに提供します』
彼女の笑みがぴたりと止まり。
でも、すぐに不敵に口角を上げました。
「まあそう来るよねー。
じゃぁ取り換えっこって事で!」
彼女は鞄から財布を取り出すと、
一枚のカードを取り出します。
それは私が彼女に手渡したものと同じカードで。
同じように、特記欄に文字が刻まれていました。
『133号室のりゅうかちゃんだけに全部提供します』
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