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僕のお家のお庭にはアジサイがある。いつからあるのか分からないけれど、赤い色のアジサイだ。近所のおばさんはあんな色は気味が悪いと言っていたけれど、僕はこのアジサイが大好きだった。
大きな赤いアジサイを毎日眺めているのは楽しいけれど、何故かここから離れられない。
いつも一人で見ているのに、今日は違った。お父さんとお母さんとと知らないおじさんが二人、アジサイを見ていた。
「では、始めます」
一人のおじさんの声で、お父さんともう一人のおじさんがいきなりアジサイの根元を掘り返し始めた。
「やめてよ! アジサイがかわいそうだよ!」
僕はそう叫んだけれど誰も聞いてくれない。
どんどん土は掘り返されて行って、ついにアジサイが抜けた。それでもお父さんとおじさんは掘るのを止めない。
お母さんに止めてもらうよう頼もうとしたけれど、何故か泣いていて何も言えなかった。
ふと、玄関の方が騒がしいのに気がついた。見てみると、たくさんの人が集まっていてお父さんたちのことを見ていた。そして何故かパトカーもあった。
「ありました!」
土を掘っていたおじさんがそう叫ぶと、もう一人のおじさんがお父さんをどけて土を掘りだした。
お父さんはお母さんに向かってなんか怒っていた。そして泣いていた。
「でたぞ!」
おじさんたち二人が土の中から掘り出したのは、大きな黒いごみ袋の塊だった。それをおじさんたちがお庭へ降ろすと、お父さんが必死に袋を破いて開けていった。
「ああ!」
お父さんが叫びながらごみ袋の中から出したのは、なんと僕だった。
それで僕は全部思い出した。あの日、お母さんに怒られてごみ袋に入れられたこと。そして真っ暗で狭くて冷たい場所に閉じ込められたこと。
僕は、お腹がすいて何度も何度もごめんなさいって言ったけれど誰も助けてくれなかったこと。いつの間にか外に出ることが出来るようになっていたことも。
「あなたを児童虐待及び殺人容疑で逮捕します」
おじさんがそう言ってお母さんの腕に手錠を掛けた。そしてお父さんと一緒におじさんたちに連れられてパトカーへ向かって行った。
パトカーへ乗り込むほんの一瞬、お母さんが僕の体がある方を向いてごめんねと言ったのが見えたけれど、声は聞こえなかった。
お母さん、僕は、お母さんが大好きだったよ。
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