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その女性はいつも赤い傘をさしていた。
正確に言うと赤い傘を持っていた。
梅雨のころの話。
新宿と新宿三丁目の間の地下コンコース。
丸ノ内線で1駅だが、地下通路でつながっている。
ボクが新宿三丁目から新宿方面に歩いていくと
決まって新宿方面から歩いてくる女性。
真っ赤な傘。
ボクは青い傘。
いつも8時45分に
紀伊国屋書店の地下出入口付近ですれ違う。
これは日本の鉄道ダイヤの正確さを称えるべきかな。
なんとなくその女性を意識するようになってきた。
彼女は身長160センチくらいのスリムな女性。
髪は今どき珍しい黒髪のセミロング。
歩くときの姿勢がよい。
ヒールを軽くコツコツといわせてまっすぐ前を見て歩いている。
間違っても歩きスマホはやらなそうなタイプ。
ボクは東武東上線の志木から通っている。
副都心線の通勤急行で新宿三丁目駅まで行き、そこから新宿西口のオフィスまで歩くのだ。
新宿三丁目からはオフィスまで地下通路がつなっがっているので雨に濡れることはない。
ここの地下コンコースはお気に入り。
丸井の出入口があり、壁がお洒落にデコレートされている。
その壁からニョキっとグリーンな植物も生えている。
そして、どこからともなくアロマな香りが漂ってくる。
そんな都会的な空間で
気がついたら彼女と会うのは日常のルーチンとなっていた。
会うと必ず声をかけていた。
「おはよう」
もちろん聞こえないように・・
彼女もたまに声をかけてくれた。
「おはよう」
もちろん空耳だけどね・・
アイコンタクトだけは、ばっちり。
彼女はボクを見て微笑んでいるよう。
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