願い事ひとつ

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「じゃあ。そういうことで」  そう言って、叶多は再びコトンと俺の肩口に頭を乗せた。 「叶多?」 「終点まではあと30分。今度は起こしてよね」  にっこり笑って叶多は肩越しに俺を見あげた。  ようやく収まっていたはずの心臓が再びドキンと鳴る。 「あ、ああ。今度はちゃんと起こすよ」 「約束だよ」  叶多はそっと目を閉じる。長い睫毛がふわりと揺れた。  俺はさっきと同じ姿勢で、叶多の肩を抱く。  やはり心臓はドキドキと高鳴っていたが、不思議と緊張はなくなっていた。  ただ、その代わり。  倖せだと思った。  今、此処に、こうやっていることが。  あと少し、こうしていられる時間が延びたことが。  とてもとても倖せだと思った。  今、腕の中にいるこの人が好きで好きでたまらなくて。  好きすぎて。  倖せだと思った。                             FIN.
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