願い事ひとつ

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 なにげなく差し出した手の中にポタリと雨の粒が落ちてきた。 「あ……雨……?」  おもわず見上げた空には薄っすらと雨雲がたちこめている。  それを見てようやく俺は、そういえば今日は雨が降りそうだから、外出するなら傘を持っていった方がいいよと、朝がた叶多(かなた)が言っていたことを思い出した。  朝の空は青空が見えていて、まさか本当に降るなんて思ってなかったのに。  そりゃ、叶多の言葉を信用しなかったわけではないんだけど、今日は荷物が多くて重かったから、まあいいやって。そんなふうに思って、ついつい傘を持たずに寮を出てしまっていた。  本当に、叶多は不思議なくらい勘が鋭い。こと天気に関しては、そこんじょそこらの気象予報士なんかより的中率は高いだろう。ああいうのもある種の才能というんだろうか。  俺はそんなことを思いながらもう一度、手のひらに落ちてきた雨粒を見つめた。  これってもしかして、雨の最初の一粒なんじゃないだろうか。なんてことを考えた。
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