願い事ひとつ

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 俺の願い……?  俺はどう答えていいか分からず、目を見開いて叶多を見つめ返した。  欲しいものは、決して叶わない想い。  手の届かない人。 「……琉? どうかした?」 「……あ……いや、そんなとっさに願い事とか思いつかなくてさ」 「そりゃそうだ。まあ思いついたら言ってよ。今日一日限定でならなんでもするよ」 「な…なんでも?」 「ああ、そうそう。でも、エロいこと以外でお願いします」 「…………!?」  俺の表情をどう読んだのか、叶多は悪戯っぽく笑って、そんなことをのたまった。  なんだそれは。  おもわず俺は叶多に背を向けてバス停に向かって駆け出してしまう。 「り……琉!?」 「ほ、ほら、バスがきた。乗ろう! 叶多」  ちょうどタイミングよくやってきたバスを指差して俺は叫んだ。叶多は何の疑いもなく、ああそうかと一緒になって走り出す。  そして俺達はタタタッとバスに乗り込むと、いつもの指定席となっている最後列の座席に身体を投げ出すようにして座った。
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