願い事ひとつ

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 心臓がバクバクいっていた。  これは、走って息があがった所為ではないことは明白だろう。俺は自分自身を落ち着かせるために大きく深呼吸する。  よし、とりあえずこれで大丈夫。  ちらりと横目で叶多をみると、叶多は小さくあくびをして疲れたように目を閉じていた。 「何、叶多、寝不足?」  俺が覗き込むと、叶多は小さく頷いた。 「うん、ちょっとね。課題の提出期限が迫っててさ。昨日あんまり寝てないんだよね」  そう言って再び小さなあくび。 「大変そうだなあ……」 「まあね」 「じゃあ、肩貸してやるから寝ていいよ」 「えっ?」  俺の申し出に叶多は驚いたように目を開けた。 「寮に着いたら起こしてやるから、ほら」 「……え……でも……」  叶多の表情が遠慮に変わる。  叶多の眠りは浅い。しかも、こんなバスの中で、俺の肩にもたれて眠るなんてこと、もしかしてあり得ないことかもしれない。  それでも、俺はおもわず言ってしまったこととはいえ、引っ込みがつかなくなり、ぐいっと叶多の方に自分の肩を突きだした。
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