[プロローグ]

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「…………?」  塔の中は、外の熱気が嘘のようにひんやりとしていた。  驚いたように少年の瞳が大きく見開かれる。  快適な温度と快適な湿度。恐らくそれは少年が生まれて初めて感じた、居心地の良い空間。そして美味しいと思える空気だったのかもしれない。  少年の瞳が窺うようにぐるりとあたりを見回した。  見える場所に灯りはないはずなのに、全体的にぼうっと何処からか入ってきている光源。その光の中、やけに目につくのは真正面にある長い階段。  もちろんそれが最上階へ続く道だ。  上るべきか否か。  再び少年の心に迷いが生じているのが見て取れた。 「これはこれは、随分と久し振りの客人だな」 「…………誰だ!?」  突然響いてきた声に、少年の瞳が警戒心へと即座に変化する。  そしてこの声が何処から響いてきているのかを確かめるように、ゆっくりと周囲を見回し、辺りに誰の姿も見えないとわかると、その手を腰に帯びていた護身用と思われる長剣へと伸ばした。
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