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黒い河
「お客さん、こちらですよ」
私は船着き場にいる男に舟へと案内される。
「私の行先は、どこだ?」
「さぁ、私には分かりません」
私の問いに男はそう答える。
「ちなみに、私が殺めた張飛の行先は?」
「それも……私には分かりません」
男はまた答えをはぐらかした。
「ただ……」
男はそう言った後、しばし口ごもった。
「ただ、何なのだ?」
「ただ1つだけ言えることは、どの時代にも本当の悪者はいる、ということです。そう、自らの益のため、自らの感情を満たすために弱者を痛めつけ、弱者から搾取をしようとする者が。そして、なぜか痛めつける側の者は世から赦され、抵抗した者の方が逆に世から虐げられる。これは今後もきっと無くなることはないでしょう」
「……理不尽な話だな」
「はい。その真実まで見抜くのが我々死神の仕事です。あ、そうそう。貴殿のご家族は無事ですよ。諸葛瑾とやら、その約束は厳密に守ったようです」
「そうか……」
私はそう言って少しだけ胸をなでおろす。
「さぁ、出発の時間です。早く乗って下さい!」
男に促されるまま私は足早に舟に乗り、先に乗っていた張達の横に座った。
ゆっくりと、ゆっくりと、舟は黒い河を進んでいく。
我々の行く先はどこにあるのか?それは誰も知らない。
【終】
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