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将軍の首を刎ねる、この大それた決断をするのに迷いがなかったはずがない。まずは白装束を用意することを考えた。しかし、布の調達、仕立て、縫合などの手間を考えると、どれだけの人員を動かしても2日で1万という数を用意するのが不可能なのは火を見るよりも明らかだった。
そして次に考えたのが、脱走。しかしこれも無理がある。私が逃げるだけならいいが、私には親がおり、妻子もいる。あの張飛のことだ、私が逃げたと知るや部下を総動員して血眼になって私を探させ、もし見つからなかった日には親や妻子に手をかけるかも知れない。
次に考えたのは私が自害すること。だがこれもまた下策だ。私が死に、仮に張達が死んだとしたら、きっと張飛は白装束が揃わなかったことでやはり我が家族を見せしめとして皆殺しにするだろう。軍律という名のわがままを押し倒させるためだ。
そうなると残された道はやはり、これしかなかったのだ。
6月の朝日が昇るのは早い。真っ暗な闇が少しずつ白みを増していき、朝日は少しずつ顔を見せ始めた。
「陸が見えてきたぞ!」
張達がそう叫ぶ。皆の顔が少しだけ晴れやかになった。
何とか、何とか生き延びられた。
私の右頬を、一筋の涙が通っていった。
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