忠誠

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忠誠

「わが軍門に降るというのか」  呉の国の君主である孫権様は私達に向かってそう問いかける。 「はい。こちらが降伏の証です」  私はそう言い、首の入った袋を孫権様に見せた。孫権様の隣に居た将軍・諸葛瑾(しょかつきん)殿はこの袋の中身を見ると驚きのあまり目を見開き、孫権様に耳打ちをする。 「殿、これは劉備と関羽の義弟、燕人張飛の首でございまする」 「何?あの関羽の義弟の首とな!」  今度は孫権様が驚く番だった。呉軍は樊城(はんじょう)の戦いで関羽殿を生け捕りにした。関羽殿の勇名は呉の国にも轟いており、孫権様は何とかは配下にできるよう粘り強く説得を試みていたらしい。しかし関羽殿は劉玄徳様を裏切ることはできぬと断固として孫権様の申し出を断った。そこで致し方なく関羽殿の首を刎ねたという経緯がある。その関羽殿の義弟・張飛の首が目の前にあるのだ。驚くのも無理はない。 「瑾、どうしたものか?」  孫権様は張飛の首をまじまじと見つめながら諸葛瑾殿に問う。すると、 「張飛は名将なれど、部下の扱いがあまりにも酷く、これまで何十人もの部下をその手で殺めてきているという話です。恐らくこの者どもも手酷い目に遭わされ、それゆえやむを得ず寝首を掻いたのでございましょう。降伏の意志、信じてよいものと思われます」  諸葛瑾殿はそう答えた。孫権様は暫し考え込んだ後、私達に問いかけた。 「お前達の呉への忠誠心は誠であるな?」 「はい。我々は覚悟を決めて呉に入ってきております。残りの生涯をかけて呉に忠誠を尽くす所存です」  私はひざまずき、斜め上にある孫権殿の目をしっかり見据えてそう答えた。 「あい分かった。そなたらの降伏を受け入れようぞ」 「ありがとうございます」  私達は心から礼の言葉を吐き出し、再び深々と頭を下げた。  私達はこうして呉の傘下に入り、救われた……はずだった。
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