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私達が呉へと逃げ込んでから、蜀と呉の情勢は大きく変わった。劉玄徳様は義弟である関羽殿と張飛を喪った哀しみからか呉への猛攻を始める。特に手柄を立てているのは関羽の息子である関興殿と、張飛の息子である張苞殿だ。その中でも関興殿の活躍は目覚ましく、潘璋殿をはじめとする呉の名だたる将軍の首級を挙げていると聞く。
私は心が穏やかならざるままに持ち場に着く。そのとき、兵卒共の声が聞こえた。
「おいお前、馬忠将軍のこと、知ってるか?」
「あぁ、関羽を生け捕りにしたあの人だろ?どうしたんだ?」
「殺られたよ」
「えっ?誰に?」
「糜芳と士仁らしい」
私の心臓がどくんと跳ねた。糜芳殿と士仁殿といえば、かの樊城の戦いの際に関羽殿を裏切って呉へと寝返った男達。その2人が再び寝返ったということは……
「もしかすると、范疆や張達もいずれは……」
「しっ!聞こえるぞ!」
「でもお前もそう思っているんだろう?」
「それは……」
兵卒はそこで口ごもった。私の顔から汗が止まらなくなった。
確かに私は主君を裏切った。
だが、それが悪いことなら私はあの状況でどうすればよかったのだ?
そして私は今、呉のために誠心誠意働いているではないか?
一体私は、どうすればよいのだ?
誰か、誰か私に教えてくれ。
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