忠誠

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 あの会話を聴いてから何週経っただろうか?私の家の元へ手勢を連れた諸葛瑾殿がやって来た。諸葛瑾殿は私に向かって言う。 「范疆殿、そなたは主君から『お前達の呉への忠誠心は誠であるな?』と尋ねられたとき忠誠を誓った。その心は今も変わりないな?」 「はい。忠誠を誓っております」  私は堂々と答えた。 「ならば、大仕事をひとつ受けてもらいたい。よいな?」 「……はい」  私は返事をするのに一瞬戸惑った。ここで首を縦に振ってしまえば身の毛もよだつような恐ろしいことが起こりそうな気がしたのだ。 「あいわかった。では鎖をこれへ」  諸葛瑾殿がそう部下に言いつけると、 「はっ!」  そう言って数人の部下が私に鎖を巻きつけ始めた。鎖は体を芯まで冷やしてしまいそうなほどの冷たさだ。私は手足を鎖でがんじがらめにされ、鎖と同じくらい冷ややかな表情の兵士共に馬の元へと連れていかれる。 「諸葛瑾殿。これはどういうことですか?」  私が腹の底からそう問いかけると、 「呉の国のために、そなたには蜀に出向いてもらう。張飛殺しの罪人として。お主が出向くことでわが呉は救われるかもしれぬのだ」 「そんな……」 「大丈夫だ。そなたの家族には危害は加えさせぬ。それに、助かる可能性もあるではないか」  馬上に乗せられた私に向かい、諸葛瑾殿は気休めを言った。私が蜀に差し出されて命が助かるわけがないのだ。  馬忠殿を殺して蜀へと舞い戻った糜芳殿と士仁殿は、劉玄徳様からこの世の物とは思えぬほどの罵り方をされ、しまいには関興殿に親の仇として家畜の如く屠殺されたと聞く。私は間違いなく殺される。  隣の馬には張達が乗せられていた。彼もまた鎖できつく縛られ、うなだれていた。  私達は兵士達に囲まれたまま舟着き場から蜀へと戻る。新月の夜、河はどす黒い闇を十分に吸い込み、依然としてただただ無言で流れゆく。
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