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侑香は、肩を上下させながら、桐嶋病院へ入った。額から噴き出す、汗を腕で拭い、受付へ向かう。
「すみません…はぁ、はぁ…聖柳高校の、一年生の…草刈君、入院されていますか?」
受付の女性が、侑香の汗にまみれた姿を見て心配そうな表情を浮かべた。
「あ、草刈くんなら…ちょっと待ってくださいーー305号室ですね。今は落ち着いて、寝ているかもしれません」
「ありがとうございます!」
侑香は再び走り出した。
エレベーターには乗らず、階段を駆け上った。
ーー今は落ち着いて…ということは、発作が起きたのだろうか。侑香は不安な気持ちを押し殺すように、ただ走り続けた。
「305号室…」
扉の前で、数回呼吸を整えた侑香は、ドアハンドルに手を伸ばし、横へ開いた。
病室の窓からは、心地良い風が入り込み、白いカーテンが揺らめいている。
白いベッドの上には、身体に管が刺さった草刈が、一人瞳を閉じていた。
「草刈君!」
侑香は草刈に近寄り、布団から出ている右手を握り締めた。
「死んだら嫌だよ!私まだ、草刈君の好きな物とか、どうして私に興味を持ったのかとか、全然聞いてないよ!嫌…お願いだから、目を覚まして…草刈君…」
侑香が包み込んでいる両手の中で、草刈の右手が僅かに動いた。
「草刈君!?」
草刈は、前髪に掛かっている瞳を、ゆっくりと開けた。
両目から涙を流した侑香は、草刈の胸元に抱きついた。
「草刈君…、草刈君…」
啜り泣く侑香を見た草刈が、侑香の髪をそっと撫でた。
「草刈君…昨日はごめんなさい…私、草刈君が声を出せない事知らなくて…」
草刈は、ベッドの横にあるスケッチブックと、鉛筆を持って、文字を書いた。
机に書いてあった文字と同じ、繊細で流れる様に書かれた文字を、侑香に見せた。
こちらこそ、ごめんなさい。
話せない事を伝えると、どう思われるか心配で…でも、今考えると余計な心配でした。
侑香は、草刈から鉛筆を受け取り、返信のメッセージを書く。
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