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第二章 机上の会話
移動教室が終わった侑香は、香織を置いて急いで教室へ戻っていた。
一番で教室に戻った侑香は、窓際の席へ駆け寄る。
「か…書いてある!」
侑香は椅子に座り、机に書かれたメッセージに目を通す。
ありがとう。
三浦さんの事がもっと知りたいです。
どんな音楽が好きなの?
K
二番目に教室へ入ってきた香織が、息を荒くしながら、
「もー!侑香早いよ!…で、返事来てた?」
侑香は、満面の笑みで頷いた。
「へー、もっと知りたい…だって!これは、完全に惚れてるんじゃないかな?」
香織は、ニヤニヤした笑みを浮かべている。
「もー、香織ったら。恥ずかしいよ…」
字を覆うように、机に覆い被さった侑香。
次は、いつ返事を貰えるのかな。
音楽か…本当は、激しいロックが好きなんだけど…JPOPって書いた方が無難かな。
っていうか…私、字を綺麗に書く練習しなくちゃ!桐嶋君の文字…繊細で上品で好きだなぁ。
ちょっと待って…まだ、桐嶋君の事何も知らないし!好きってまだ早くない?
ーー私…もう、恋しているの?
侑香の頭の中は、Kの事で一杯になっていた。授業中もずっとメッセージに対する返事に迷い、侑香の机の周りには、消しゴムの削りカスが散乱した。
ロックが好きです。
一番好きなバンドはデッドヘッド。
Kさんは、何が好きですか?
お返事ありがとう。
デッドヘッド、僕も好きなので嬉しい。
一緒にライブに行けたら…なんてまだ早いですね。
じゃ次の質問。好きな食べ物は何ですか?
K
ライブ、いつか行きたいですね。
私、嫌いな食べ物がない位、何でも好きなんです。でもやっぱり、ハンバーグ!
自分でも作るくらい好きです。
ライブ行きたいって…本気にしちゃいますよ?でも、まだ誘わないでおきます。
良いですね、ハンバーグ。三浦さんの手作り、きっと美味しいんだろうな。
K
何で誘ってくれないんですか?私、いつでも行きますよ!
Kさんに食べて貰って、感想を聞きたいです。今度、お会い出来ませんか?
侑香は、回を増すごとに直接会って話がしたい欲求が高まった。そして、Kからの好意も感じとり、自然に「お会い出来ませんか?」と指が文字を走らせてしまった。
しかしこの後、五度の移動教室を終えても、Kからの返事が来なかった。
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