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第四章 止まらない鼓動
「えぇー!?桐嶋君じゃなかった?」
音楽室から戻ってきた香織に、侑香は先程の出来事を話した。
「それで?誰だったの?」
「…見たことない人」
侑香は、久々に更新された机上のメッセージを見た。
返事が遅れてごめんなさい。
会って直接話すのは、まだ少し後にしましょう。
三浦さん、以前、お婆さんに道を尋ね
メッセージを書いていた時に、侑香が教室に入ったせいで、中途半端な文章になっていた。
ーーお婆さんに道を尋ねって、何の事だろう。
「ねぇ、侑香!その男子の事、探しに行かないの?他のクラス、覗きに行こうよ!」
「でも…無言で立ち去られたんだよ?私が直接話し掛けに行ったら、迷惑なんじゃないかな」
「それが本当に謎だよね!スルーでしょ?」
侑香は額に皺を寄せ、しばらく考え込むと、閉ざしていた口を開いた。
「香織…やっぱり私、決めた!」
「おっ、探しに行くか?」
侑香は、首を左右に振った。
「見た事ないってことは、先輩や後輩の可能性もあるでしょ?クラスを回るとなると、うちら二年生だし、先輩のクラス行くのは気が引ける。それより、確実に今日、正体を突き止める為に、下校のチャイムなった瞬間、一番乗りで校門に行って張り込みする!」
「おー、その手があったか。私も一緒に張り込もうか?」
「ううん、他に誰かがいたら、余計逃げられそうだから…一人でやるよ」
「そっか、分かった!で…直接会って、何を話すの?『私の事をどう思ってるのよ!はっきりしてよね!』、とでも言うの?」
侑香は頬から耳まで、真っ赤に染めた。
「そ、そんな事言えないよ!自意識過剰じゃん!」
「だってさ、明らかに「K」君、侑香に気があるじゃん。その位強く出ても良いんじゃない?」
「もー…私は香織とは違うの!」
苦しい程の鼓動を高鳴らせていると、不思議と恋をしている錯覚に陥る。
名前も、クラスも、声も、性格も知らない人。知っている事は、字が綺麗な事だけなのに、想像だけが先走りする。
その日、最後の授業は英語だった。
ノートに「K」という文字を書くだけで、胸が飛び上がる。
先生が黒板に「K」という文字を書くだけで、胸が締め付けられる。
私ーー完全に、病気かもしれない。
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