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振り向くと、
今日、教室で見た男子が肩を落としながら、校門へ歩いてきていた。
侑香は突然、胸が熱くなった。
鼓動が、胸に手を当てなくても、身体で感じる。
侑香は、男子の前に立つと、俯いていた男子が顔を上げた。
伸びきった前髪の奥には、漆黒の瞳が夕陽に照らされていた。
真っ直ぐ通った鼻筋、
引き締まった薄い唇、
少しずつ紅潮していく頬…
侑香は「K」に吸い込まれるように見入ってしまい、思わず赤面した。
「…あのさ、何で、私にメッセージ、くれたの?その、机の上に…」
「K」が、無言のまま侑香を見つめる。
「…何か言ってくれなきゃ、分からないよ…」
「K」が侑香から視線を落とし、口をキュッと結んだ。
「私の事…どう思っているの?」
侑香は、「K」の両肩を掴んだ。
骨ばった細い肩を揺すられても、「K」は一向に口を開かず、ただ顔を赤く染めながら、静かに微笑むだけだった。
しかし、その表情は決して、侑香の言葉を拒否している様子は無かった。
侑香は両肩をから手を下ろし、「K」に背を向けた。
「直接言ってよ…」
侑香は目に涙を浮かべ、「K」の方へ顔だけ振り向かせた。
「自分の気持ちは、直接言ってよ!」
侑香は走った。
恥ずかしさと緊張で、走らないと身体がおかしくなりそうだった。
校門が見えなくなる位置まで来て、侑香は膝に手を当てて、乱れた呼吸を整えた。
「何で…」
この数分間の映像が、頭の中を駆け巡る。
「何で、何も言ってくれないの…草刈…君…」
「K」の胸元に付いていた名札を目に焼き付けていた侑香ーー。
そこには、「一年四組 草刈」と書かれていた。
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