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だけどひとは孤独には生きられない。生きられなかった。別れがあれば出会いがあるとはよく言うけれど、それは私にとっても同じことで、私にとっては違う意味合いを持っていた。
誰かと距離を置いても、生きていれば誰かと出会ってしまう。口を開けば誰かと通じてしまう。
愚かな私は出会うたびに何度でも、きっと同じ過ちを繰り返してしまう。私はそれに耐えられない。
「それでビルの谷間に飛び込んだと」
その子は近くのゴミ箱に腰を下ろして話を聞いていた。私の話に関心があるのか無いのか微妙な感じだったけれど、もう死んでいる私にはどちらでもいいことだった。
「そういうこと。死んでしまえば二度と誰にも出会わない。これ以上の過ちは犯さないで済むから」
もはや私が安息を得るにはそれしかなかった。なかったと思う。少なくともまだ生きていた頃の私には他の選択肢は見いだせなかった。決して発作的に飛び降りたわけではない。私は何週間も何ヶ月も考え抜いた上で決断したのだ。地面に届くまでちょっとかなりとても痛かったけれど、今さら悔いはない。
「そっかー」
その子は少しがっかりしたような声を上げて、続けた。
「もし、もしもだよ。こことは違う世界でやり直せるとしたら」
「やり直さないわ」
言い終わる前に割って入るように即答する。
「うーん、だよねー」
迷いは無かった。どこでやり直しても私はこの生き方を変えられないだろう。だったらそんなことには全く意味がない。もう私は、自分が生きることそのものを許せないのだ。
「ご厚意は嬉しいのだけれど」
謝りはしない。
「別に構わないよ。じゃあね」
たぶん、言葉を選んでくれたのだろう。ゴミ箱から飛び降りると私に背を向け、さよならも言わずに去っていくその姿はすぐに認識出来なくなる。
だって私はもう死んでいるのだから。
何も見えない。
何も聞こえない。
何も感じない。
それこそが当たり前なのだ。
次第に意識も薄れていく。
ああ、さようなら。
私の許せなかった世界。
私の許さなかった世界。
私は最期まで一切を赦さずここに終わろう。
さようなら。
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