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「紅茶だけどいいかな」
「岩永先輩、すみません。いくら同じ職場でも、独り暮らしのおうちに、こんな夜遅くに訪問するのは非常識ですよね」
ティーカップをテーブルに置くと、正座をしていた桜子さんが三つ指をついて謝った。
そんなの見たのは時代劇くらいだ。良家のお嬢様かな。
「いきなりだから驚いたよ。来たのはどんな用事?」
「はい……あの、その……」
「僕に相談事だね。女同士だから気兼ねなく言ってよ」
しまった。“僕”なんて一人称でしゃべる女はキモいかな。男子なら9割はそう思うはずだ。
女子校時代、同級生や後輩を問わず、悩み事相談をされるのが学園ナンバーワン。そのなかには先生までいたものさ。
(こんな容姿だからかな?)
僕の見た目は長身で髪型がショートボブ。おまけに宝塚歌劇団の男役でいけるルックスだ。
いかにもハッキリクッキリと、物事を判断するタイプに見えるらしい。
でも実情は何事にも悩み、すぐに決断できずに一晩考える優柔不断な性格だ。
目の前の彼女──此花桜子さんもそうだろう。
おとなしいオーラをまとい、小柄で黒縁の眼鏡をかけて、髪をポニーテールにしている彼女。
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