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綾がそう言うと、くすり、と隆人は笑った。つられて綾も笑い出す。顔を見合わせて、二人は笑顔を見せた。くすくすと、二人分の明るい笑い声が雨音を打ち消す。
……ひとしきり笑った後、はー、と隆人は大きな息をついた。
「すっきりしたね」
「はい」
綾は微笑む。いつもよりも、更に表情を崩して。
その笑みに、隆人は口の端を緩めた。とても愛おしくて、たまらない。もっと、彼女の愛を感じたい。
「ねぇ、綾。『春恋奏』弾いてくれる?」
「はい」
その返事に胸が温かくなりながら、隆人は綾から離れたところに座る。愛おしい彼のその様子を見届けると、綾は右の親指を弦に引っ掛け、左手を琴に添える。そして隆人のことを想いながら、曲を奏で始めた。
テン、テテテン……。甘く、柔らかい音が、部屋に響き渡った。
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