心の音を響かせて

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心の音を響かせて

 どこからか聞こえる琴の音。それ惹かれて、少年は庭を歩いていた。  少年にとって初めての昔ながらの屋敷は、彼の住む西洋建築の屋敷とは随分と違う。初めて味わう独特の雰囲気に、少年の心は高揚感と安心感に同時に包まれた。  トン、トン、シャン……。次第に大きくなる琴の音。何だか早く行かないといけない気がして、少年は僅かに足を早める。  トン、トン、シャン……。ほとんど走るようにして、少年は庭を横断する。もうここが他人の――しかも目上の人の家だということは、頭からすっぽりと抜けていた。  そして、少年は音のする部屋についた。角部屋で、障子が開け放たれている。少年は一旦落ち着くと、そうっと静かに部屋の中が見える位置に足を向けた。  部屋の中には一人の少女がいた。年の頃は、少年より三つ下の七つほど。長い黒髪に、色鮮やかな小袖と袴を纏っている。  そして少女は、小さな体で大きな琴を弾いていた。白く、細い指が琴の上を滑るように動く。  その様はとても美しくて。少年は熱に浮かされたかのように、少女を見つめ続けた。  ……やがて、トーン、と最後の音が響いて、少女は琴から手を離す。そして一息つくと、再び琴に手を置いて――     
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