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「待って!」
少年は思わず叫んだ。ぴくり、と少女の肩が跳ねる。しばらくの間硬直した後、恐る恐るといった感じで少女は顔を上げた。
至って普通の黒い瞳。だけど、その瞳は他の人とはどこか違って。どきり、と少年の胸が跳ねた。
「――だ、れ?」
「――僕? 僕は隆人。君は?」
少年――隆人は満面の笑みを作って、問いかけた。少女はしばらく視線を彷徨わせた後、掠れた声で告げる。
「……あ、や」
「そっか、あやちゃん! ねぇ、あやちゃん、お願いがあるんだけど――」
「な、んで?」
とてもとても小さな声。平生だったら聞き逃してしまうそれを、隆人の耳は異様なまでに素早く拾っていた。
「ええっと、どうしたの?」
「……なんで、あなたは、……そんなふうに、無理をするの?」
隆人は目を見開いた。それは、今までかけられたことのない言葉で。驚きと同時に、胸に喜びが湧き起こる。
嬉しい。彼女は僕をちゃんと見てくれてる。
少年はそう思うと、ゆるりと口元を綻ばせて苦笑した。
「ちょっと、ね」
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