少女、紅茶香る

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そういうと、喜沙は急いで温室を出て行った。 しばらくすると、喜沙が嬉しそうにトレ―にティーポット、カップ、ミルクに砂糖、そしてスコーンを二人分乗せて戻ってきた。ベンチ前のテーブルにトレーを置き、慣れた手つきでそれらをテーブルに並べる。その手際のよさ、優雅さから、喜沙がお嬢様であることを毎度のように再認識する。 喜沙がティーポットの蓋を開け、茶腰を取りだし、ポットの中身をスプーンで軽くひと混ぜする。その際にふわりと漂ったベルガモットの香りが、中身が私の大好きなアールグレイの茶葉だということを教えてくれた。香り高い液体が、均一の濃さになるように二つのカップに順々に注がれていく。最後の一滴までしっかりと注いだら、その最後の一滴が落ちた方のカップを喜沙は私の前に置いた。 これは喜沙が教えてくれたことだが、その最後の一滴はベスト・ドロップと言って、紅茶の旨みが凝縮された唯一の一滴なのだそう。喜沙はいつも私にそのベスト・ドロップが入ったカップをくれる。   喜沙の仕事がひと段落すると、どうぞ、と言って私に先に紅茶を飲むように勧めてきた。それに従うようにして、私はまず香りを楽しみ、ミルクも砂糖も入れず一口を口に含んだ。 「おいしい」 「そう、良かった」 喜沙が口元を緩ませた。私が紅茶を飲んだことを確認すると、やっと喜沙もカップに口をつける。 「おいしい」 喜沙が私と同じ反応を繰り返した。喜沙の入れてくれる紅茶はいつだって美味しくて、口に合わなかったことなんてない。 紅茶に少量のミルクと砂糖を入れながら、喜沙と今日までの試験のできを語り合った。喜沙は頭が良いので、普段勉強に困ることなんてない。だからそんな話をしたところで、いつだって「完璧」という答えしか返ってこないのだけど。一方私の方はと言うと、喜沙ほど頭は良くないがそれなりに勉強は出来るほうで、今回の試験だってそこまで点数は悪くないと思っている。と、お互いそんな感じで、思いのほかさらっと終わってしまう。
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