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涙の熱さは夏の日差しに焼かれた頬よりもずっと熱かった。それに溶かされて虚勢もぼろぼろと崩れていく。
もうノノは不安に耐えられず、叫ぶ。その声は悲鳴に近かった。
「神様なんて、いないじゃない!いるなら治してよ!いつかじゃなくて、今!キリちゃんに奇跡を起こしてよ!」
とうとう堰き止められなくなった悲しみという本性を見て、キリは優しく微笑む。抱きしめていて、見えなくとも声の優しさで笑っていることがノノにはわかった。
「ねえ、いつまでも友達でいてね。…例えば、私が病気に負けても」
「聞きたくない!」
大きな声をあげた。その先を聞くのは恐ろしかった。病魔に憑かれた彼女の未来は、今、夕暮れの心地よさが信じられないほど、暗い。
「うん、そうだね…こんなこと、言わない方が良いね」
言われなくても、教えてもらった。今の医療では治せる見込みがないということは、彼女の両親から、自分の両親づてに聞いた。
信じられるわけがなかった。
今、信じられるのは奇跡を起こしてくれる神様だけだ。
「嘘だよ。全部、嘘。なんで、なんで病気になんてなるの?なんでキリちゃんだったの?キリちゃんの方が、真面目で、同じ生活だったのに!悪いこと何にもしてない!神様なんて、居なかった!初詣もお参りも、しなきゃよかった!」
八つ当たり先がもはや神様しかいない現状を嘆くほど、目の前の罪のない友人を責めていることは分かっていた。分かっていたが止められない。
止めることができないほど、悔しい。
しょうがなかったと諦められるほど、少女は大人ではなかった。もしこの時大人であっても、たぶん泣いていた。
それほどに悲しく、悲しみを乗り越える術がない。
一筋の希望を見出したフリをして、百回「どうかキリちゃんが治りますように」と願った。
心のどこかで無意味だとは知っていた。それでも願わずにはいられなかった。
神様に祈り、神様を呪う。そんなことしか、無力な学生であるノノには出来なかった。
「…神様はいるよ」
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