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許されたので触ってみる。指先でふにりと押したのは、柔らかくて、同い年の女の子の脚だ。何の変哲も無い部活を止めたせいで白くなった脚。
なぜ、いつの間にこの脚は動かなくなったのか。この前まで松葉杖だったのに、なぜもう車椅子でしか移動できないのか、ノノにはわからない。
目を見開いたまま閉じられないノノの手をキリは握ろうとする。少し手を動かすだけでもその手はゆっくりとしか動かない。
ようやくキリがノノの手を握った。キリの指はノノの手を軽くしか握ることができない。触れた力の弱さに衝撃を受ける。
キリの病気は悪化している。こんなことに付き合わせてどうにかなるわけがないことは明らかだった。
だからと言って、それをどうして、素直に受け止められるだろうか。
できるわけがなかった。ノノとキリは親友だった。百回お参りをする程度には、もしくは百回お参りする間待ち続けてくれる程度には、二人は大親友だった。
突き付けられた現実にどうしようもなく息苦しくなって、ノノが汗だらけの身体でキリを抱きしめてもお互い文句も出ないほど、仲が良かった。抱きしめた身体は夏の暑さよりは冷たく心地良く、健常者のものと全く変わらない。車椅子が転ばないように注意しなければいけないという現実が頭をよぎり、こんな時にも病気のことを表す車椅子がノノは心の底から憎かった。あの石の階段より憎くて仕方がなかった。
「い、いつか、絶対治るよ。私もお百度参りしたし」
「来週から私、外国に住むことになったって、ノノちゃん知ってるよね?私の脚、外国まで行っても治るかどうかわかんないんだよ?それを、お百度参りで?」
「ほら、なんか、新しい細胞を発見とかよくテレビで言うし、もしかしたら」
言葉を重ねれば重ねるほど、発想がありきたりになって意味が軽薄になっていくのが嫌というほどわかった。
気持ちは本当なのに、うまく伝わらない。希望を与えたいのに、ノノには彼女の期待に応えられるものが無い。
「もし、もし…ほら、お参りして、神様がさ、奇跡とか起こしてくれるかも…」
友人を励ますことすらうまくできない。胸に詰まった悔しさが喉元を焼いて目の奥に滲む。そしてとうとう涙になった。
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