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straight
一
今日の空模様がどんなものだったか、僕はぬるい湯船につかりながら思い出そうとしていた。明日の予報ならばともかく、すでに過ぎ去った空を気にする必要などないのだが、何かに意識を向けなければ頭の中があることでいっぱいになってしまうので、仕方なくさほど関心事のないものへ意識を分散させようと試みているのである。
僕の意識を支配しつつあるのは、尾之上呉羽という女子からの頼まれごとだ。尾之上は僕と同じ高校に通っている。群馬県では珍しい共学の進学校だ。同学年であるにもかかわらず、今日までまともに顔を合わせたこともなかった。もう二年の六月なのに、である。そんな彼女が今日の昼休み、突然僕を訪ねてきたのだ。
一番廊下側の列の後ろから二番目が僕の席だから、教室後方の扉を開けた彼女が僕を見つけるのは容易だったと思う。僕は午後の授業の課題を片付けながら弁当を食べていた。問題の難解さと母が作った卵焼きの甘さと塩味の複雑なバランスに頭を悩ませていたとき、
「清水君、ちょっと」
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