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 可憐は最近、周りで「可憐が小田切の事を好いている」という噂が立っていることを知った。  知った直後は、何を的外れな事をという感想しか持たなかった。しかし、この噂を小田切自身が知る事になったらと考え、落ち着かない気持ちになった。そんなことになったら、噂を疎んで小田切は可憐との接触を避け、相談にものってくれなくなるのではと思ったのだ。  可憐にとって、それは困る。デマに負けない事実を作ろうとし、可憐は休み時間の生徒たちの数多くいる中で、伊藤への再度の告白を決行したのだった。  その行動のお陰で、小田切との噂は立ち消えたが、肝心の小田切本人には裏切り行為として受け取られてしまった。  今まで親切に相談にのってくれていた小田切が怒るのは最もだと、可憐もわかってはいたが、伊藤に再度告白した理由を説明するのは何故か、どうしてもできなかった。  逃げるように…実際、小田切から逃げて自宅に帰り着いた可憐は、自室のベッドに倒れ込んだ。  可憐は、言い訳に使われる「だって」が大嫌いだ。優柔不断や意志薄弱を象徴するような言葉で、他人が言うのを聞いていても苛立つというのに、今日はその嫌悪する言葉を使って、負い目のある相手から逃げてしまった。  可憐が天井を見ながら自己嫌悪に沈んでいると、携帯が鳴った。発信元は小田切で、臆病になった可憐は一瞬、無視してしまおうかとも思ったが、今さっき、彼から逃げてしまったことに後悔していたのを思い出し、勇気を出して電話に出た。 「もしもし」 「あ、小田切、です」 「…はい」  可憐はまた、教室での質問を繰り返されるのかと謝る準備をしようとしたが、謝罪してきたのは小田切の方だった。 「ごめん。あの後、クラスの奴に『北川さん、お前が好きだったんじゃなかったんだな』とか言われて。俺、知らなかったんだけど、北川さん、俺のこと好きだって噂になってたんだな。確かに、そんなの伊藤に知られたら誤解されて困るトコだったよな」  伊藤に噂を聞かれたら困る……正直、そんな理屈は、今、小田切に言われるまで、一度も頭を掠めてはいなかった。
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