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 翌朝、教室に入って来た北川を見て、慎一はギョッとした。髪型が、昨日までとは全く違っていたからだった。  昨日、慎一は結局、伊藤の好みの女子というものを北川に教えてやった。控えめとか、気が利くとか、守ってあげたくなるとか、そう言った特徴については北川は、「曖昧過ぎてわからない」とピンとこなかったようだった。  そこで慎一が、伊藤がファンの、あるアイドルグループの推しの固有名詞を教えてやると、すかさず、北川はスマートフォンをいじり出した。おそらく、そのアイドルについて検索していたのだろう。暫らくして、「なるほど」と言ったきり、彼女は慎一の存在を忘れたかのように、スマホの画面に見入ってしまった。  慎一はてっきり、彼女自身とアイドルとの間にキレイ系かわいい系の分類以上の、絶対的な違いを見出し、北川がショックを受けているのだと思っていた。  慎一は、彼女をそっとしておいてあげるというのを口実に、そっとその場を去ったのだった。    そして今朝。慎一は自分が思い違いをしていたことを痛感することになった。  彼女は、あきらめていなかった。寧ろ、具体的な目標を得た彼女は、更に闘志を燃やしたようだった。その事を、今朝の彼女の髪型を見た慎一は、これ以上ないくらい思い知った。  北川のヘアスタイルは、例のアイドルの完コピといってよかった。彼女は、そもそもは茶色がかったゆるくウェーブした髪だった。それが、今日、教室に現れたその姿は真っ黒な髪の、ストレートであった。  北川の顔が整っているだけに、その髪型も似合わない訳ではないのだが、小顔に見せるためのそのカットは、元々顔が小さく背がすらりと高い彼女には必要ない代物だし、清楚さを演出する筈の黒髪も、彫りの深い顔立ちでは却ってミステリアスさが強調され、近づき難さが増してしまっていた。  教室に来た北川は、一直線に慎一に向かっていくと、彼に「どう?」と聞いてきた。 「どうもなにも…」  そういうんじゃないんだよな…とは、慎一は心の中でしか言えなかった。北川が、その高校生離れした容姿に関わらず、「褒めて」とばかりに子犬のような表情で聞いてきたからだった。
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