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「で、偶然、奏衣先輩が境先輩とキスしてるとこ見た」
「はっ?」
「誰にも言ってないよ」
境と一度だけ学校帰りに外でキスしたことがある。離れ難く遠回りした駅までの道、偶然見つけた遅咲きの桜が綺麗で、花を影にそっと唇をつけた。舞い散る花びらがふたりを祝福してくれてるみたいだと思った。その後すぐに振られたけど。
「なに思い出してんの?そっちは覚えてるんだ」
「おまえが言い出すからだろ」
奏衣があっさり認めてしまうと、小さなため息が聞こえた。
足が疲れたらしく一度下ろし、反対の足でまた奏衣を閉じ込める。こちらも同様に剃り残しなく丁寧に手入れされていて、指で辿ると本当にすべすべしていた。スカートの裾に手が差し掛かった時、ふるっと肌が震えた。
「聞けよ」
思いがけず強い口調で皐月が奏衣を制した。
「おまえが触れって言って、目の前に生足晒してんじゃん。ほんとすべすべだな」
「やっぱやめて、触られると変な気持ちになる」
眉間に悩ましげに皺が寄せられていて、自分が触るだけでそんな反応をするのかと妙に感心した。もっと知らない表情が見たくて指を往復させようとすると、その手を掴まれた。
「なに止めてんの?これからいちゃいちゃしてやらしーことすんだろ?」
覚えてもいない過去を突然持ち出されたことに、イライラし始めていた。急になんでもいいからぐちゃぐちゃにしたくなる。
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