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オレ達は机を挟み睨み合った。壁にかかる時計の秒針がよく聞こえる。秒針に併せて朝倉の顔がリンゴが熟すように染まり、瞳がジワリと潤んだ。朝倉はため息を漏らし、廊下に向かって歩き出す。そんな彼女の後ろ姿を睨みつけていると彼女が足を止めて振り返る。
「それより、私のスマホ落ちてなかった?」
「知るか、帰れ!」
オレが毒づくと、朝倉は露骨な舌打ちを打って教室から出て行った。静かな廊下から聞こえる彼女の足音は徐々に小さくなった。拾ったスマホをポケットから取り出す。
鏡のようなディスプレイ。
そこに写るオレは頬に汗を伝わせていた。
☆
蒸した廊下を漂い、最上階へ向かう。パソコン室と書かれている教室がオレの部室だ。
扉を開けると潤うような冷気。パソコンが三〇台ほど設置された室内では、はちきれそうな胸元にだらしなくリボンを垂らす女子が寂しげにキーボードを叩いている。
クラスメイトであり、部長のマナカだ。彼女はオレに気付き、小さな頬を膨らませる。
「逢坂くん、遅い。何をしていたの? 私が独りぼっちでいるのを楽しんでた?」
「お前なんか観察しても面白くねぇよ」
マナカの隣席に腰掛け、荷物を置いてパソコンの電源を入れる。スリープモードになっており、すぐにデスクトップ画面が表示された。すでにマナカがパソコンを立ち上げていたらしい。彼女の方を向くと、ムスっとしたままオレを上目遣いで見つめている。
「掃除当番で送れただけだ」
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