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架空の逢坂進は『オレも人と顔合わせるのが苦手なんだ』などと同情を誘う言葉を重ねている。言葉の甘ったるさはハチミツを飲んでいるようだ。
そのとき、オレのスマホに着信がきた。マナカからだったので、応答する。
『逢坂くん、ニセ逢坂くんが誰かわかったよ』
オレはスマホを耳にあて、周囲を観察する。マナカには、ニセアカウントの持ち主を特定するように頼んである。
『学校のサーバーのアクセス記録を調べていたらね、WIFI使って、ニセ逢坂くんのページに二つのスマホがアクセスしてたの。一つは朝倉さんの。そしてもう一つは――』
マナカが口にした名前の人物はオレのすぐ近くにいた。
彼女――大宮チサトは赤い傘を差し、物陰でほくそ笑んでいる。彼女の視線の先には茶髪の男。傘も差さず、人混みをかき分け、朝倉の方へ向かっている。男が十メートル近づいたところで、朝倉も男に気づき視線を向ける。男と朝倉が一体何を話しているのかはわからない。
だけど二人を見つめる大宮は長い黒髪を風に靡かせ、クスクス笑っている。
数分後、噴水の方から茶髪が大宮の元へ戻ってきた。大宮と茶髪は心地よさうなハイタッチを決めると赤い傘の中で抱き合い、語り合う。
「ドッキリは楽しかったかチサト?」
「スッキリしたよ。ミオのポカンとした顔、傑作だった!」
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