短編1 携帯電話

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 大宮と茶髪は互いの顔を見合わせて笑みを浮かべると、相合い傘をして大通りへ続く階段へ歩き出す。そんな二人の後ろ姿を見つめているとオレの胸が高鳴った。気がつくと軽やかに足を動かして、二人との距離を詰める。 周囲を一度確認する。 雨が強くなり傘を差しているせいか、こちらを見る人は少ない。 オレの胸の高鳴りは最高潮に達したのはこの時だった。  気が付くと、オレは大宮と茶髪が下り階段へ足を踏み込む瞬間を見計らって二人を突き飛ばしていた。大宮と茶髪は悲鳴をあげる間もなく十三階段を転がり落ちる。 階段の下にいた人達の悲鳴。 宙を舞う大宮の鞄から荷物が散乱し、アスファルトで悶える大宮に振り注いだ。少女マンガのヒロインのように整った顔や、制服のボタンが弾けて露出した体には大きな傷。  そんな大宮を階段の上から見下し、ほくそ笑む。もし落ちていたスマホが大宮のものだったら、オレはナチュラルな顔と身体を大宮のむき出しの心のように汚していただろう。  その願望が思いもよらぬ形で叶った。  階段の下の人達が大宮と茶髪に駆け寄る間に、オレは噴水へ向かう。  噴水の前では、朝倉ミオが傘も差さずにタイルの上にペタリと座りこんでいる。  オレは浮き足だった足取りで朝倉の横に座る。それに気づいた彼女はオレを見上げた。強くなった雨は彼女の顔に降り注ぎ厚化粧を溶かし、額に傷跡を浮かび上がらせた。  そこで彼女がどうして厚化粧をするのかを理解した。     
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