笑顔のデッサン

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笑顔のデッサン

 部屋の畳の香りは四年前と同じ、秋の香りがした。  肩に抱えたクロッキー帳を窓際に置いた途端、固くなった肩が解れていく  山々に囲まれた町にあるこの旅館とこの部屋は、オレにとって第二の故郷だった。  素足で畳みの網目をなぞり、カタカタ騒ぐ窓を開けた。赤く彩られた山間から秋風が付吹き抜け、部屋の暖気を浚い、部屋には木皮を剥がしたときの甘い香りが残った。 「この時期の風は冷たいけど優しくて、実家の親のことを思い出すよ」  風で捲れるクロッキー帳を抑え、オレが呟くと『彼女』は真っ直ぐに揃えた指先を手に当ててクスクスと笑った。その笑顔を和服が一層上品に仕立てている。 「四年前の今日もお兄さん、同じことを言ってたよ?」 「そうだった?」 「あ、お兄さんのお顔が赤い。照れてる?」 「……お前、ちょっとうざくなった?」 「お前じゃありません、私の名前はカエデだよ。カ・エ・デ!」  彼女は胸を張って得意げになった。 キリっとした眉。長い睫。長い髪が似合うメリハリのある顔立ち。 二十代という風貌をしている。  そんな彼女が正座した足をモジモジさせ、オレに物欲しそうな視線を向けている。     
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