0人が本棚に入れています
本棚に追加
クロッキー帳では、三つの尾を持つ子ネコが小首を傾げていた。モノクロだけど影の付け方で毛並みの柔らかさや立体感を演出している。
「私、体が弱くて、外出できないから、いつもお兄さんが絵を描いてる様子を眺めてた。」
「そういえばカエデ、部屋で寝込むことが多かったな」
尋ねるとカエデは「うーん」と唸った。
「体調があまりに悪くて死んじゃうかもって思ったことがあったけど、それを超えたら。体が軽くなって元気になったの。もしかしたらお兄さんとの『約束』があったからかも」
カエデがすがりつくようにオレに抱きついた。衣擦れ音とともに彼女の身体の柔らかささを感じる。花のような甘い香りも感じている。
「私、元気になった後、一生懸命お母さんの手伝いをしたんだよ? それなのに元気になってから、誰も振り向いてくれない。誰も声をかけてくれないの」
彼女の手に力が籠る。その力に応えたくて、オレは彼女の体を同じくらい力強く受け止めた。そして彼女のサラサラした髪を撫でる。
「お前はちゃんとここにいる」
カエデは目から涙を溢れさせながらオレを見つめていた。
大粒の涙が零れているはずなのに、オレの服は濡れた後一つ残っていない。 彼女の涙の軟らかさや温かさを感じるはずなのにその痕跡が残らない。
最初のコメントを投稿しよう!