笑顔のデッサン

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 オレは油が切れたように滑りの悪くなった口を強引に動かした。 「オレ、絵描きになったんだ。常夜明時っていう名前で。」 「知ってるよ。お兄さんが心霊現象の番組に出演する日は必ず、ロビーのテレビで確認したんだよ。霊を描くことでその霊を成仏するってやつ、かっこ良かった! もうすっかり有名人だね」  カエデが目を大きく見開いた。彼女の目から溢れる大粒の涙が痕跡を残すことなく、ポタポタと畳みに零れては、弾けていく。 「お兄さん、私との約束、覚えていますか?」  そんな彼女にオレは答えた。 「絵描きになったら、カエデを世界一綺麗に描く……だろ?」  オレはテーブルに置かれたクロッキー帳と鉛筆を手に持つ。 カエデはそんなオレを見つめ、窓際に正座した。  今の彼女には四年前の面影がほとんど残っていない。だけど―― 「お兄さん。私を、このクロッキー帳のネコちゃんのように美しく描いてください」  カエデが言葉を漏らして微笑んだとき一瞬だけ彼女が背にする窓に、四年前の無邪気な彼女がオーバーラップした気がした。でも、窓には彼女の姿は映ってなどいなかった。 「お前がちゃんとここにいることを証明してやるからな」     
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