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連休前の終業のホームルームは、いつもより少しだけ連絡事項が多かった。
日直の号令に合わせて挨拶を済ませると、瀬生綾花はすぐにいつも通り舞波昂がいる隣のクラスに向かうため、鞄とサイドバックに手を伸ばそうとした。
だが、今日はその寸前で声をかけられた。
「ねえ、綾花って、どうして学校一変わり者の舞波くんといつも一緒に登下校しているの?」
顔を上げた綾花の前に立っていたのは、同じクラスで友達の星原茉莉だった。
「あのね、茉莉。いろいろとあったの」
「もう、綾花。それ、理由になってないってば!」
綾花が少し困ったようにはにかんでそう答えると、茉莉は不満そうに口を尖らせた。
「舞波くんの家って、怪しい魔術書がいっぱい置いてあるって噂だよ。絶対、近寄らない方がいいって!」
「で、でも…‥…‥」
「それに舞波くん、綾花のマンションの周りをうろうろして待ち伏せしていたみたいなの」
「そうなんだ…‥…‥」
「ねえ、たまにはさ、私達と一緒に帰らない?」
「えっと…‥…‥」
困り果てた綾花を救ったのは、彼女と同じクラスの男子生徒だった。
井上拓也ーー綾花の幼なじみで、綾花の彼氏でもある。
「やめろって星原。ほら、綾花が困っているだろう?」
拓也はたしなめながら、綾花と茉莉の間に割って入った。
「もう!井上くんもさ、どうしてあの舞波くんと登下校しているのよ?」
「うっ、それは…‥…‥」
痛いところを突かれて、拓也は言葉を詰まらせた。
「井上くんも綾花もさ、前はあんなに舞波くんのこと、遠ざけていたじゃない!付きまとわれて困っているって!」
「…‥…‥まあ、いろいろとあってな」
「…‥…‥むっ、井上くんも、綾花と同じこと、言ってる。ねえ、どうしてよ?」
「それはゲームがほしーー」
拓也が慌てて右手で綾花の口を塞いだ。
綾花はきょとんとした顔で顔を上げると、拓也が綾花に目配りをしてみせる。
綾花はハッとした。
「あ、俺達、そろそろ行かないと」
「ーーあ、うん。茉莉、また、今度、一緒に帰ろうね」
鞄とサイドバックを掴むと、逃げるようにして拓也は綾花の腕を掴むと教室から出たのだった。
廊下に出た二人はお互いの顔を見合わせると、思わずほっと息をつく。
だが、すぐに厳しい表情で、拓也は綾花を見た。
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