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「典男先輩」
大会から1週間経った日の昼休み。僕は後輩の大関茜から声をかけられた。
「最近、どうしたんですか?折角県大会を決めたのに全然部活に来てないじゃないですか」
「あ、まあ……色々あってな」
僕は当たり障りのないようにそう返事をする。
「まぁ、先輩の好きにしていいと思いますけど、ただ……」
「ただ、どうした?」
僕は大関にそう訊き返す。すると、
「腐った江川先輩を見たくない人だっているんだ、ということは忘れないで欲しいんです。私もそうですし、その……咲子先輩だって、きっとそうです」
「それは……どうして?」
「だって、あんなに声を枯らして応援してる咲子先輩を見たの、初めてだったから」
「そんな訳ないだろ?ありえない」
僕は驚いてそう言う。数ヶ月前に断られた告白、そして咲子ちゃんが発した「典男君は行けないと思うわ。だけど、私は絶対に行く」という言葉。そこから声を枯らして応援してくれていた咲子ちゃんの姿を想像するのは僕には難しかった。
「でも、実際私は聞いたんですよ。大会前に。最近の典男君はすごいって。数ヶ月前に比べたら見違えたって。できることなら一緒に県大会に行きたいって」
「でも、その肝心な咲子ちゃんが居ないんだよ」
「居ないから何なんですか? 居ないから腐るんですか?咲子先輩のために磨いてきた自分をまたわざわざボロボロにするんですか?」
「君には分からないよ」
僕は大関にそう漏らした。大関は哀しそうな顔をしながらその場を走り去ってしまった。
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