私は、絶対に勝つ

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「行けるのかなぁ……」  理科室の掃除の最中、咲子ちゃんとの無駄話の中で僕は不意にそうつぶやいた。  僕と咲子ちゃんは同じ水泳部の同期で、明日に地区大会を控えている。咲子ちゃんは50m、僕は200mに出場する。お互い中学3年生であり、今回が中学生活最後の大会だ。県大会に行く最後のチャンスなのである。2週間前の中間記録会での僕のタイムは2分31秒48。去年の地区大会のボーダーラインまであと1秒半届かなかった。正直、分は悪い。一方咲子ちゃんのタイムは31秒94で、去年のボーダーラインよりコンマ05秒速いが、それでも当落線上ぎりぎりのところにいる。 「典男君は行けないと思うわ。だけど、私は絶対に行く」 「……だよね……」 「はい、だからさっさと掃く!」  咲子ちゃんは僕に向かってそう返事をして僕にほうきをグイッと押し付けてきた。固く絞ったぞうきんでてきぱきと理科室のテーブルを水拭きする咲子ちゃんを尻目に僕はゆっくりと床を掃き始める。三角巾をかぶった後ろ姿も、まぶしい。  練習は重ねているのだがなかなか結果に結びつかない日が続いている。そんな中での歯に衣着せぬ咲子ちゃんの発言は少なからず僕の心をえぐる。それでも…… ーー僕が県大会に行きたい1番の理由は、咲子ちゃんなんだけどな。  窓から梅雨曇りの空が見える中で僕はそう心の中でつぶやきながら、3ヶ月前の決意を思い出していた。
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