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「ごめんね」  あれはまだ桜の咲く少し前の季節。僕の全身全霊を懸けた告白は咲子ちゃんの発した平仮名4文字によって無残にも切り捨てられた。  内心分かっていた。同じ水泳部と言えど咲子ちゃんと僕では格が違いすぎる。咲子ちゃんは勉強はトップクラスで生徒会役員にも選ばれている。それでかつ体育祭ではリレーの選手、合唱祭ではピアノ伴奏者すらこなしてしまう。ただでさえこのスペックの上、容姿は端麗。気が強いところだけは玉に(きず)であるが、そこを差し引いても底抜けの明るさと時たま見せるアイドル顔負けの愛くるしい表情は男子の視線を集めるには十分な要素だった。  そして僕も、咲子ちゃんのことが好きだった。  気持ちだけは負けないつもりでいた。でも…… 「ごめんね」  ばつの悪そうに答える咲子ちゃんの表情が痛い。咲子ちゃんは僕のことを、隣にいる男としてふさわしくないと判断したのだ。 「いや、いいんだ。じゃあね」  そう言ってその場を立ち去るのが僕には精一杯だった。  悔しくて眠れない夜が続いた。忘れよう、忘れよう、そう思えば思うほどに咲子の顔が笑いかける。考えに考え抜いた末、僕は1つの結論にたどり着く。  咲子ちゃんを諦めるなんて、無理だ。  無理だ。だから、とにかくできることだけはやろう。僕の脳が再びフル回転を始める。可能性があるとしたら、可能性があるとしたら……これしかない。水泳で県大会に行くことだ。  咲子ちゃんは1年、2年とまだ県大会へは駒を進められていない。お互い、2年までは地区大会で敗退しているのだ。でももし今年、お互いに駒を進められたら……僕たちのために、舞台は整うはず。  決めた。咲子ちゃんと一緒に県大会行きを決めて、僕はもう一度告白する!
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