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約束
咲子ちゃんの敗退が決まってから、僕達は一言も喋らないまま1日を終えた。僕は勝ったんだ。でも勝ったのに、痛い。これでもかというほど重苦しい時間が流れ、漸く昼の暑さがましになり始めた頃、漸く大会の全日程が終了した。
大会が終わり、会場の正面玄関に僕達は集められた。顧問の高岡先生が今回の大会の講評を1人1人に伝えていく。しかし僕の頭の中には全く入ってこない。
僕は……僕は一体どうすればいいんだ?
「では皆、気をつけて帰るように!おつかれさま」
高岡先生がそう言うと、
「ありがとうございました」
部員は声を合わせてそう言い、思い思いの方向へと散っていった。
「よっ!」
帰る途中の僕の背中から声がした。振り返るとそこには咲子ちゃんがいた。
「お、おめでとう」
咲子ちゃんは笑顔でそう言った。
「あ、ああ……」
僕はそう言うと、再び口をつぐむ。
「約束、破っちゃった」
咲子ちゃんがおどけた声でそう言う。
「そ、そうだよ、何約束破ってんだよ」
僕の口から言葉が飛び出した。自分が発した言葉なのに、僕自身が驚いた。
「『典男君は行けないと思うわ。だけど、私は絶対に行く』とか言っちゃってさぁ」
いいから黙れ、僕は僕自身にそう言い聞かせるが、口が勝手に開いてしまう。
「結果が逆ってどういうことだよ。あれだけさぁ、その、あれだけ……」
そう言いかけた瞬間、僕の左の頬に咲子ちゃんの平手が飛んできた。
「何よ!言わせておけば!アンタの言う通りよ。私は大口を叩いたわよ。でも好きで負けたんじゃないわよ!」
咲子ちゃんは僕にそうぴしゃりと言い放つと、走って行ってしまった。
こんなことを、こんなことを言いたかったんじゃない。
「あれだけ咲子ちゃんは頑張ってたのに、何で機械がトラブったんだよ……」
僕はぽつんと立ち尽くしながら、小声でそうつぶやいた。これなら僕が予選で負けて、咲子ちゃんが勝った方がまだよかった。僕はそう本気で考えていた。
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