8人が本棚に入れています
本棚に追加
――うっ、書けない、一文字も……。
なんも浮かんで来ない。――小説が書けないーっ!
ノートパソコンの画面上に開かれたテキスト・ファイルは真っ白だった。
「やっぱ俺、紙でないとダメなのかなあ……」
一日中、あぐらをかいて座ってるせいか、最近やけに、膝が痛い。
それでも、書かねばならない。金を稼ぐんだ、絶対、小説で……。
一週間前、ネットで小説の応募の広告を見た。
「なに、100文字でウン万円! これ、メッチャおいしいやん!」
「ふーん。テーマは、『神様』か」
「どこかに『神様』が登場すればいいんだな。よしっ」
というわけで、俺は、執筆に取りかかった。
だが、小説なんて書いたことない。それに、『神様』なんているわけないじゃん!
「クッシュン! ヒャクション!」
「いやだなあ、花粉症。目までモヤがはってるわ」
テーブルの上に置いてあるトイレットペーパーを取り、ミシン目の二枚目でキッチリと切り取った。もちろん、シングルタイプだ。それで目と鼻水を拭いた。
気を取り直して、パソコンに向かい、
「100文字。100文字。100文字。ウン万円。ウン万円。ウン万円」
「100文字。100文字。100文字。ウン万円。ウン万円。ウン万円」
「100文字。100文字。100文字。ウン万円。ウン万円。ウン万円」
とそう呟きながら、そのまま、キーボードを打ってしまっていた。
「アカンわ、これ。俺、何書いてんだろう」
――ふんっ、地震? 揺れてる?
微震だけど、確実にアパートの俺の部屋は揺れていた。
数秒後、地震は止み、静けさが戻った。
「驚かすなよ。小心者なんだから。心臓バクバクいってるよ。俺の寿命、短くするなよ……」
「何? 何? なんだあ? 幻覚かあ?」
俺の眼前には、さっき使用したトイレットペーパーが宙に浮いていた。それも、どう見ても、手足が生えているではないか? でも、頭部はない。
「ゲッ、化け物ーっ」
俺がそう叫ぶとそいつは、
「失礼なこというな。儂は、『紙様』だぞ。正式には『再生紙様』じゃぞ」
と口も無いのにそういった。
いや、そう聞こえたと思っただけで、実際は、脳がそう感じただけだったかもしれない。
「『再生紙様』って、『神様』ってこと?」
一瞬、俺の脳裏に閃きを感じた。そして、もう恐怖は消し飛んでいた。
最初のコメントを投稿しよう!