『紙様』お願いっ!

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 ――うっ、書けない、一文字も……。  なんも浮かんで来ない。――小説が書けないーっ!  ノートパソコンの画面上に開かれたテキスト・ファイルは真っ白だった。 「やっぱ俺、紙でないとダメなのかなあ……」  一日中、あぐらをかいて座ってるせいか、最近やけに、膝が痛い。  それでも、書かねばならない。金を稼ぐんだ、絶対、小説で……。  一週間前、ネットで小説の応募の広告を見た。 「なに、100文字でウン万円! これ、メッチャおいしいやん!」 「ふーん。テーマは、『神様』か」 「どこかに『神様』が登場すればいいんだな。よしっ」  というわけで、俺は、執筆に取りかかった。  だが、小説なんて書いたことない。それに、『神様』なんているわけないじゃん! 「クッシュン! ヒャクション!」 「いやだなあ、花粉症。目までモヤがはってるわ」  テーブルの上に置いてあるトイレットペーパーを取り、ミシン目の二枚目でキッチリと切り取った。もちろん、シングルタイプだ。それで目と鼻水を拭いた。  気を取り直して、パソコンに向かい、 「100文字。100文字。100文字。ウン万円。ウン万円。ウン万円」 「100文字。100文字。100文字。ウン万円。ウン万円。ウン万円」 「100文字。100文字。100文字。ウン万円。ウン万円。ウン万円」  とそう呟きながら、そのまま、キーボードを打ってしまっていた。 「アカンわ、これ。俺、何書いてんだろう」  ――ふんっ、地震? 揺れてる?  微震だけど、確実にアパートの俺の部屋は揺れていた。  数秒後、地震は止み、静けさが戻った。 「驚かすなよ。小心者なんだから。心臓バクバクいってるよ。俺の寿命、短くするなよ……」 「何? 何? なんだあ? 幻覚かあ?」  俺の眼前には、さっき使用したトイレットペーパーが宙に浮いていた。それも、どう見ても、手足が生えているではないか? でも、頭部はない。 「ゲッ、化け物ーっ」  俺がそう叫ぶとそいつは、 「失礼なこというな。儂は、『紙様』だぞ。正式には『再生紙様』じゃぞ」  と口も無いのにそういった。  いや、そう聞こえたと思っただけで、実際は、脳がそう感じただけだったかもしれない。 「『再生紙様』って、『神様』ってこと?」  一瞬、俺の脳裏に閃きを感じた。そして、もう恐怖は消し飛んでいた。
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