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先程まで仲睦ましげに話していたとは思えない予想外の妹の反応に、春斗は特に気に止めた様子もなく、むしろまたか、と不本意そうにため息をつく。
あかりはきょろきょろと周囲を見渡し、自分の置かれている状況に気づくと、呆然とした表情で目を丸くした。
「な、何で私、また、お兄ちゃんの部屋にいるの」
狼狽する妹の様子に、春斗は額に手を当ててため息をつくと朗らかにこう言った。
「はあ…‥…‥。いい加減慣れろよな」
「…‥…‥慣れないもの」
曖昧に言葉を並べる春斗に、あかりは訝しげな眼差しを向ける。
怒り心頭の妹をよそに、春斗はテレビのゲーム画面を見遣って言った。
「ほら、あかり。おまえの第一目標だったランキング入りを果たしているぞ」
「…‥…‥ランキング入り」
テレビをじっと凝視していたあかりの声が震えた。期待に満ちた表情で、あかりはなりふりかまっていられなくなったように上半身を乗り出す。
そんな彼女に、春斗はてらいもなく告げた。
「頑張れば、ランキング上位も夢じゃないな。そうすれば、念願のオンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』の第三回公式トーナメント大会のチーム戦にも出場できるかもな」
「あはっ、出場できるんだ」
あかりは笑顔だった。
恐れるものなど何もなかった。
この方法を使えば、自分は生き続けられて何よりゲームの大会に出ることができるかもしれない。
それを証明するための準備をするために、あかりは春斗に対して力強く頷いてみせた。
季節が巡った中学一年の終わり。
それは、彼女が中学二年生になる目前の出来事だった。
雅山あかり。
最近、オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』を始めたばかりの初心者であの時、確かに死んだはずの妹が、早くもランキング入りにまで昇りつめた理由。
それはどこまでもまっすぐだった妹の想いに準ずるところがあるのだが、同時に俺と両親ーーそしてある人物が画策した愚かな願いが含まれているのも諌めない。
春斗が中学校を入学した時、既に妹の体は他の子とは違っていた。
亜急性硬化性全脳炎。
それがもたらしたのは、慢性的な身体の不具合と学習障害。
「…‥…‥ん、お兄ちゃん、お兄ちゃん」
病室で直接名前を呼ばれて、雅山春斗は突っ伏していた机から勢いよく顔を上げた。
真っ白なベットに横たわるあかりは、酷い顔色だった。
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