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行き交う人々の間を抜け、風を切るように会社への道を進む。途中、ドラッグ・ストアのガラス壁に写る自分の姿を目で盗む。いつもの紺色のスーツに、パッと咲く黄色。真っ黒なハイヒールが足元をきゅっと引き締めていて、風になびく髪の毛が残像を残す。 やっぱり、あのおばあさんは魔法使いだと思う。ほんのちょっとしたことで、心も見た目も明るくしてくれる魔法使い。 この魔法は、いつかは解けてしまうもかもしれない。でも、そうなったとしても、未来の私は新しい魔法を自分にかけられそうな気がする。他の誰かにかけてあげることだって、きっとできる。 「さて、いつまでもうかうかしてられないな。まずは商談を成功させなくちゃ。ここで油断したら全部が水の泡だもの。」 私は背筋を伸ばし、また一歩足を踏み出す。 後ろの方で、誰かがこちらを見つめているような気配がした。 振り返ってみたが、それは単なる気のせいで、私に目をくれる人など一人もいない。 スポットライトのように迷いなく差し込む日の光の中で、人々がそれぞれの目的地を見据えているだけだ。 そんな風景が、たまらなく居心地のよいものに思えた。 立ち止まる私の足元を、さらさらとした5月の風が通りぬけ、スカートの裾を揺らした。
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