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それなのになぁ。 頑張ってショートケーキを作ったのに、最後の最後にてっぺんに乗せる苺を買い忘れてしまった。とでもいうような、もどかしくてどうしようもない、残念な気持ちだ。 混みあった電車の中で、疲れ切ったサラリーマン風の男性と大きな楽器を背負った女子学生に挟まれた私は涙を飲み込みながら、自分の詰めの甘さを悔いた。 せっかく頑張って準備をしたのに、こんなやつれた顔では印象でマイナス点になってしまう。健康的であることだって、社会人としては大切なことだというのに。昨日も遅くまで残業をして、家に帰ってからスーツにアイロンをかけたりしていたら、深夜と呼ばれる時間になってしまった。せめて前日くらいはきちんと睡眠を取っておくのだった。 一駅進むたびに人を押し込み続けていた電車は、オフィスの集まる駅に停車すると、それまでため込んだものを一気に吐き出すかのようにたくさんの人をホームへと押し出す。その勢いに引きずられるようにして、私も電車を降りる。白く舗装された道路の上に規律よく並びそれぞれの職場へと闊歩する人々は、SF映画に出てくる宇宙戦士のようだ。私もその列に混ざり、トボトボと会社を目指す。 「もしもし、そこのあなた。」 白いビルの立ち並ぶ大きな歩道をを歩いていると、ふいに何かが手に触れた。
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